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STEP1 活動事例を知りたい

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放課後まなびサポート事業

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親の経済格差は、子どもの学習機会や将来の就労、経済状況に大きな影響を与え、「貧困」が繰り返されることが全国的にも大きな課題となっています。
「子どもの貧困」は、負の連鎖の結果であり原因。
子どもの学習・生活支援を通じて貧困の連鎖軽減を目指す取り組みを紹介します。

※この記事は「協働まちづくりの実践」と同じ内容を掲載しています。

RELATION MAP
MEMBER

特定非営利活動法人アスイク
大橋 雄介さん

みやぎ生活協同組合
小澤 義春さん

一般社団法人パーソナルサポートセンター
立岡 学さん/後藤 美枝さん

教育格差だけでなく、つながりの格差も埋める居場所

夕方6時、週2回、仙台市青葉区にあるみやぎ生活協同組合(以下、みやぎ生協)の集会所で行う学習会に、学校帰りの中学生たちが集まります。「おつかれ〜。今日は何する?」と迎えるスタッフは、大学生から年配の人までさまざま。受験を控えた中学3年の女子生徒は「ここでは1対1で丁寧に教えてくれる。家には兄妹が4人もいるから、ここなら集中して勉強できる」と持参した宿題に熱心に取り組みます。

学習会を運営しているのは、特定非営利活動法人アスイクです。「中学生の放課後まなびサポート事業」での学習支援を通じ、貧困の連鎖防止に取り組んでいます。事業の対象は、生活保護を受けているか、児童扶養手当の支給区分が「全部支給」に該当する世帯の中学生で、参加は無料。学力向上のための学習サポートのほか、自分たちで職業体験を企画するなど、「やりたいこと」を形にする体験プログラムや、進路相談も受け付けています。会場は、市内5区20カ所。そのうち14カ所は、みやぎ生協店舗内にある集会所を利用しています。

場を切り盛りするのは、アスイクのスタッフと、年代も経験もさまざまな約400人のボランティアやアルバイトスタッフ。子どもたちは、勉強をするだけでなく、学校での出来事を話したり、好きな音楽の話で盛り上がったり、それぞれが自分なりに過ごし方を決めています。1カ月前から通い始めた中学1年の女子生徒は「勉強以外にもいろんな話がしたい」と毎回楽しみにやってきます。学校や家庭以外で得る経験や人とのつながりは、子どもたちの視野を広げ、社会性を育む機会にもなっています。

スタッフは、「日々の記録」というノートを用意し、子どもたち一人一人の様子を記しています。学習の進み具合はもちろん、子どもたちの普段の様子から垣間見える家庭の課題を逃さないよう見守っています。スタッフの今井涼夕子さんは「部活帰りで疲れて寝てしまう子もいるけど、まずは来てくれればいい」と話します。


大人たちの優しいまなざしに見守られています。

解決したいことは同じ ニーズに応えるための役割分担

アスイクによる学習支援の始まりは、2011年。東日本大震災により多くの学校が避難所になったことで、学校再開の見通しが立たず、子どもたちの学習が遅れるという状況があったなか、勉強を教えるボランティア活動としてスタートしました。アスイク代表理事の大橋雄介さんは「学習支援を通じて、子どもと関係性を築いていくと、外からは見えない家庭の課題が見えてくるようになりました」と話します。生活再建が落ち着いても、親が介護や病気などを理由に安定した仕事に就けないなど、経済的課題を抱える家庭は、養学校でもなく塾でもない。ここは自ら来たくなる「自分の居場所」。育面の課題を抱えている場合もあります。そこでアスイクは、みやぎ生協、一般社団法人パーソナルサポートセンター(以下、PSC)の三者で、「せんだい学びとくらしの安心サポート共同体」を結成。それぞれの団体の持つ強みを生かし、学習支援から生活支援まで包括的にサポートする体制を作りました。

構成団体の一つであるPSCは、行政などによるさまざまな支援制度につながっていない生活困窮者の支援に取り組む団体です。震災後は、被災者の生活再建支援、仮設住宅の見守り活動などに奔走していました。まなびサポート事業でも、就労支援の役割を担っています。常務理事の立岡学さんは「親、家庭の課題解決なしに、子どもの貧困を解決することはできません」と話し、「共同体になったことで、困窮者の情報を共有できるようになり、必要な人に支援が届くようになりました」と、連携の重要性を語ります。

みやぎ生協生活文化部部長兼くらしの安心サポート部部長の小澤義春さんは「2008年のリーマンショックから生活格差が広がり、さらに震災によって多くの組合員が家族や財産、仕事を失い生活が困難な状況にありましたが、多種多様な課題の解決をすべてみやぎ生協だけで取り組むのは限界がありました」と振り返ります。組合員の暮らしと地域の復興にみやぎ生協の役割を果たそうと、生活困窮者や多重債務問題など、暮らしの問題を抱える人を支援する目的で共同体に加わりました。参加にあたっては、事業の安定的な運営のため、店舗内に併設された集会所を無償で提供。県世帯の7割超が組合員であることから、ネットワークを駆使してボランティアを呼び掛けたり、事業の広報をしたり、みやぎ生協の理念として掲げる「地域で困っている人を地域で支える力」を実践してきました。


熱心に取り組む子どもたちに指導する側も真剣そのもの。

協働することによって広がった 子どもを通じた家庭支援

まなびサポート事業は、2013年に太白区内3カ所の集会所で試験的に事業が始められ、翌年には本格化。青葉区にも拡大しました。日常的に利用する店舗に併設された集会所はアクセスも便利。家庭によっては、地域の目が気になり学習支援を受けに通うことをためらうケースもありますが、その点、普段から多くの人が利用する機会の多い集会所は、目的を特定される心配はありません。大橋さんは「通う子どもたちが、周囲の人たちから負のレッテルを貼られにくい。その上、学習道具など荷物を置いておくスペースも確保してもらうことができるなど、公共施設よりも自由度が高く、助かっています」と拠点の重要性を話します。

さらに、この事業を利用する家庭向けに、みやぎ生協の自主事業である「くらしと家計の相談室」の相談員による家計講座を開催。子どもの成長に合わせた教育費の捻出など長期的な計画の仕方や、母子世帯を対象とした公的支援制度の紹介を行いサポートしています。みやぎ生協の相談員の中には、実際に子育て経験のある人も多く、参加者からは「親身に相談に乗ってもらえた」「長期で家計のやりくりを考えたことがなかったので勉強になった」と好評です。

相互扶助が活動の柱であるみやぎ生協にとって、同じミッションを違った専門性を有する団体と協働で進めることは重要な意味を持ちます。小澤さんは「自分たちが目指していることが、協働することによってより価値のある形で進めることができました」と成果を話します。大橋さんは「子どもの貧困対策の中核である学習支援から当事者の困り事を掘り起こし、いろいろな機関と連携しながら支援の幅を広げていくことができる」と事業の主旨を話します。原因が複雑に絡み合う貧困の連鎖を断ち切るため、この協働事業は継続的な活動へと発展しています。

2015年、生活困窮者の増加を背景に、生活保護に至る前の自立支援強化を図る目的で生活困窮者自立支援法が施行されました。この法律は、これまで現場のニーズに応える形で進めてきたこの事業にとっても、新たな拠りどころとなっています。


みやぎ生協の店舗に併設された集会室を利用しています。

生まれる小さな協働 地域全体でつながりの格差を埋める

みやぎ生協は、普段からサロン活動で、地域の居場所づくりに取り組んできました。小澤さんは「震災後、被災者を対象にしたサロン活動なども活発になり、組合員さんたちは多くの経験を積みました。自分たちだけでなんとかしようとせず、協働することでできることが増えるということも一人一人が体験し、それが今の活動に影響を与えています」と変化を振り返ります。

2015年12月、この事業で学ぶ子どもたちを対象に、みやぎ生協の女性組合員が中心となり「COCOKU〜RU(ここく〜る)」という夕食会を月1回、自主的に企画するようになりました。開催までにアスイクのスタッフと相談したり、子どもたちと話をしたり、少しずつ関係を築きオープンにこぎ着けました。学習会では無口な子が、夕食会では生き生きと話をすることも。小澤さんは「その子には、夕食会の雰囲気やご飯を作ってくれるボランティアの皆さんの雰囲気が合っていたのでしょう」と話します。これまでの協働体験が組合員を通じて地域に広がり、また一つ、支援の窓口が生まれました。


スタッフは、勉強の合間にいろいろなことを話します。何気ない会話からも子どもたちへの心配りがうかがえます。

子どもたちが多様なつながりのなかで 成長できる社会に

2017年、PSCの自立支援窓口には引きこもりに関する新規相談が増えています。立岡さんは「引きこもり相談で目立つのは成人。そこに至る前の早い時期に多様な接点が持てれば、その後の生活も違ってくるはずです」と課題を示します。PSC相談員の後藤美枝さんは「引きこもりの場合、相談は親御さんからのケースが多く、その場合、子どもさんへの直接的なケアはできません。そんな時は親御さんに『まなびサポート』を勧めています」と話します。 そして、必要なのは支援の多様性であると続けます。

現在、まなびサポートの対象者は市内だけで約2000人弱。大橋さんは「支援制度や活動している団体はあっても、まだどこともつながりを持っていない子どもたちがたくさんいる」と危機感を抱きます。貧困の連鎖軽減に向け、さまざまな機関との協働の輪を広げ、子どもたちが多様なつながりのなかで成長できる社会を目指します。

(取材・文:市民活動サポートセンター 松村 翔子)


CONTACT

特定非営利活動法人アスイク
〒983-0852 仙台市宮城野区榴岡4-5-2 大野第2ビル2F
Mail: info@asuiku.org
Tel: 022-781-5576/Fax: 022-781-5591

みやぎ生活協同組合
〒981-3194 仙台市泉区八乙女4-2-2
Mail: sn.mseibunjimu3@todock.jp
Tel: 022-218-3880/Fax: 022-218-3663

一般社団法人パーソナルサポートセンター
〒980-0802 仙台市青葉区二日町6-6シャンボール青葉2F
Mail: info-kizuna@personal-support.ong
Tel: 022-399-9662/Fax: 022-224-1621

更新日:2019.07.04